A.大電力・大電流制御B.アーク・遮断器への新技法適用C.給配電システムの解析

C.   交流・直流給配電システムの特性解明と運用に関する研究

火力発電所や原子力発電所の様に非常に大きな出力の発電所が一極集中している状態に対して, PV装置などは小型のものが分散して各所に配置されていることから,PV装置などを「分散型電源」とも呼びます。 後述しますが,分散型電源が配電系統の末端部に大量に接続されると,これまで(分散型電源の未連係時)には 起こりにくかった逆潮流などの様々な問題が顕在化してきます。 この研究テーマでは,その問題の解決を解決するために適した配電系統等の制御方法・運用方法を研究しています。

配電および需要家内システムの運用と電圧制御方法

近年では,太陽光発電装置 (PV: PhotoVoltaic)の普及拡大が政策的に進められています。 この普及拡大に伴い,長距離配電線の末端部(つまり,発電・変電所から最も遠い位置)におけるPVの導入量が増加しています。 Fig.C-1は,長距離配電系統の末端部にPV装置が繋げられている様子を表しています。 PVが接続された配電系では,PVと柱状変圧器の間にPCS(Power Conditioner System)が接続されています。 PVの出力は直流電力ですので,このPCSにより交流変換をしています。 またこの時に,PCS出力電流と電圧の力率を調整することで,安定した送電ができるように制御もしています。 配電系統の線路途中には,自動電圧調整器(SVR:Step Voltage Regulator)も取り付けてあります。 このSVRや柱状変圧器などにより,要所要所で電圧を調整することで,配電系統の電圧分布が適正範囲内に収まるようにしています。

PVなどの分散型電源が連係されていない電力系統ですと,電力の流れ(潮流)は変電所から末端部に向かって一方的に流れることから, 配電線の電圧は系統の末端に向かって単調減少になります。 一方で,分散型電源が末端部に接続されると,末端部における出力電力が末端負荷の総容量よりも高くなった時には 末端部から変電所側へ電力の流れができる「逆潮流」が起こります。 逆潮流は少ない場合なら良いのですが,逆潮流をする電力が大きくなってしまうと,高圧配電系統での電圧上昇量が大きくなってしまい, 最悪の場合には電圧が適正電圧を逸脱し,電力品質の確保ができなくなってしまいます。 逆潮流を起こしても系統への悪影響がほぼない電力の範囲を,「逆潮可能電力」と呼びます。 PVの大量連係時には,この逆潮可能電力や適正な電圧範囲を逸脱しないように,さらには 逆潮可能電力が大きくなるように系統全体を制御する必要があります。 しかしながら,実際の配電系統の様にSVRが接続された系における逆長可能電力はこれまで検討されていませんでした。

私たちの研究室では,Fig.C-1(b)に示したような長距離配電線の末端部に大量のPVが連係されたモデル配電系統を対象として, SVRやPCSの動作を考慮した逆潮可能電力を検討しています。 これまでには,Fig.C-2に表すようにモデル配電系統の単相等価回路をとりあげ, 配電系統の線路インピーダンスやSVRの変圧比などを用いた逆潮可能電力の定式化を試みてきました。 その結果,Fig.C-2に示した単相等価回路に関する電流・電圧のベクトル図を基にした回路論的考察を行うことで, SVRが設置された配電系統での逆潮可能電力の定式化に成功し,さらには高圧配電線の電圧分布の定式化にも成功しました。 また,SVRの動作を考慮した場合の逆潮可能電力も計算により求めています。 Fig.C-3がその結果です。 この結果では,PCSの有効出力電力の増加と共にSVRの二次側電圧が適正範囲(SVRの制御有効範囲)を逸脱しようとするのですが, その都度SVRの変圧比を変化させることで,PCSの出力電圧がSVRの適正範囲内に常に収まっています。 その結果,逆潮可能電力が3902 kWまで増加しています。 逆潮可能電力はPCSの運転力率にも影響を受けることから,PCSの運転力率を様々に変えた解析も勧めています。 Fig.C-4が,PCSの運転力率を進相力率と遅相力率に変えた場合の逆潮可能電力です。 この図から,従来のPCS制御では進相運転が主に行われていたのですが,遅相運転により逆潮可能電力の増大ができる 可能性があることが示唆されています。 最近では, PV導入箇所が増加した場合,負荷(例えば需要家を想定)や潮相設備を考慮した場合など, より現実の状態に近い配電系統における逆潮可能電力の定式化や電圧分布の定式化を行っています。