超伝導体
や
熱電変換材料
の性能は、
その結晶配向性に大きな影響を受ける。 たとえば、YBa2Cu3Oy (YBCO)に代表される 酸化物超伝導体は、結晶方位がずれて接合した 結晶粒界において、臨界電流が著しく 低下する問題点を持っている。 そのため、結晶が配向した(試料全体にわたって結晶軸方位が整列している) 試料の作製が望ましい。 熱電変換材料の場合にも結晶配向性は重要である。 熱電変換性能の指標である性能指数は、試料の電気抵抗率が低いほど大きくなる。 試料の抵抗率は、キャリア密度と移動度の積の逆数で表され、 特に移動度は試料の組織と密接な関係にある。 不純物や結晶粒界などを含んだ乱れた組織の試料中では、キャリアが散乱されるため移動度が 低くなる。その結果、抵抗率が上昇し、性能指数の低下につながる。これを避けるため、 できるだけ純良で結晶が配向した試料が望ましい。 結晶が配向した薄膜試料を作製するために、 エピタキシャル成長 を用いている。 エピタキシャル成長とは、あらかじめ下地となるある結晶Aを用意し、その上に結晶Bを成長させると Aの結晶軸方位にならってBが成長することである。この成長を利用することで、配向した薄膜試料を 得ることができる。 当研究室では、気相、固相と液相という物質の三態を利用した Vapor-Liquid-Solid薄膜成長法 (VLS法)によって、 限りなく単結晶に近い薄膜試料を作製する研究を行っている。
図1: Vapor-Liquid-Solid (VLS)成長法の概略図。
図1はVLS法の模式図である。 あらかじめ、基板上に"種"結晶となる薄膜( Solid )を 薄く成長させ、その上に結晶成長の"溶媒"となる液相( Liquid ) を蒸着する。 この液相に気相( Vapor )から原料を供給すると、 液相と固相の界面で結晶が成長する。 VLS成長は、過飽和溶液の中で結晶成長が進行する成長様式であり、種々の単結晶育成法と原理的に 同じである。そのため、単結晶に近い結晶性を持った薄膜を作ることができる。 SiやGaAsなどの半導体材料もVLS成長し、ひげ状結晶(ウイスカー)が得られる。 身近なところでは、雪の結晶もVLS成長によって成長していることが知られている。
図2: VLS成長法で作製したSmBa2Cu3Oy超伝導薄膜の
表面AFM像。
酸化物超伝導体は、液相としてBa-Cu-Oを用いることでVLS成長する。図2は、VLS成長した SmBa2Cu3Oy (SmBCO)薄膜の表面を AFMを用いて観察した表面像であり、 SmBCOが四角いらせん状に成長していることがわかる。 らせん成長(スパイラル成長)は、過飽和度が非常に低いときにみられる結晶成長様式であり、 下地に存在しているらせん転位のステップにそって成長する。 このらせんのステップ一段の高さはSmBCOの一分子層の高さに一致し、ステップの幅は環境条件 (過飽和度)に依存している。そのため、表面形態を詳細に調べることで、薄膜の成長環境を 知ることができる。 |